「高校生とリアルの場で関わり続けたい」認定NPO法人D×P職員 野津岳史さんインタビュー
(※この記事は約20〜25分で読むことができます)
みなさんこんにちは、そしてこんばんは!ぼちぼちライターのにっしーです。
今回は、大阪にある「認定NPO法人D×P(ディーピー)」(以下、D×P)の職員、野津岳史(のづたかふみ)さんにインタビューを行いました。
定時制・通信制高校に通う生徒を対象に、さまざまな事業を展開しているD×P。私もコンポーザー(ボランティア)として関わることがあり、D×Pの姿勢や事業内容にはとても共感をしています。
野津さんは、最前線で学校現場に携わっており、D×Pの中核を担う存在として活躍されています。
今回は、D×Pで正職員として働かれている野津さんに、D×Pの詳細や働くきっかけ、コロナが高校生に与えた影響や今後の展望などを語っていただきました。
また、序盤の部分ではD×Pの詳細も詳しく紹介しています。教育に興味・関心を持つ方はぜひご覧ください!
目次
D×Pとは?
「野津さんのことを詳細にお伺いする前に、D×Pの詳細や活動内容などを紹介します」
ー現在、野津さんが働かれているD×Pは、どのようなきっかけで設立に至ったのでしょうか?
設立のきっかけは、代表の今井紀明が高校生のとき、イラクで人質になったことです。
今井は、イラクに住む子どもたちの医療支援のためにイラクへ向かいましたが、武装勢力に拘束されてしまいました。解放されて帰国した際、さまざまなバッシングを受けたんですね。
家に批判の手紙が届くこともあったり、関係のない誹謗中傷を受けたりして、対人恐怖症を発症しました。
ー家にそのような手紙が来ると、外に出ることも怖くなりますよね。
そうですね。結果、今井はしばらく引きこもる形となりましたが、さまざまな人に支えられ少しずつ明るさを取り戻しました。
その後、大学に通ったり働いたりするなかで、今井は「ユメブレ(ブレインストーミング)」を開いていました。自分の夢について語る時間であり、「否定しない」ことが特徴です。
このユメブレを若手の社会人に向けて行ったとき、通信制高校の先生と出会ったことが大きな転機でした。
通信制高校の卒業生の2人に1人が進学も就職もしない(※2012年当時)という現状があり、不登校の経験やいじめを受けた経験があるなど、生きづらさを抱えている生徒がいる
先生からこのような話を聞いた今井は、自身も過去に「生きづらさ」を感じた経験があるため、リンクした部分があったんですね。
「生きづらさがあったとしても、ひとりひとりに可能性はある。人とのつながりを通じて、自分なりの一歩を踏み出せるきっかけがつくれないか」
その考えから、若者をターゲットにした事業を始めたいと思い、D×Pが設立されました。
活動内容の詳細
「D×Pは、『否定せず関わる』『ひとりひとりと向き合い、学ぶ』という2つの姿勢を大切にしています。この姿勢を大切にしながら、D×Pは高校生に向けてさまざまな活動に取り組んでいます」
ーD×Pの活動内容を教えてください。
D×Pでは、オフラインとオンラインの両方でさまざまな取り組みを行っています。オフラインは「クレッシェンド」「居場所事業」「仕事体験ツアー」の3つです。
クレッシェンド
クレッシェンドは、社会人もしくは大学生と高校生が対話をする授業です。この取り組みは、単位認定された授業の中で実施しています。
実施する目的は、「人と関わってよかったと思える時間をつくる」ことです。
授業といっても、何かを教える授業ではありません。コンポーザーが経験した辛かったことを共有したり、一緒に現在や今後について対話したりすることを主としています。
2,3年生に対しては、進路の選択や卒業後に向けて、これから先を考えるにあたってのヒントとなるような価値観や判断軸を知れるような時間や、卒業後困ったときに頼れる先を知れるような時間もつくれるように工夫しています。
居場所事業
居場所事業は、今と未来の居場所をつくります。
今の居場所をつくる部分では、学校の中で居心地よく過ごせる場所をつくっています。空き教室を利用して、食事を提供したりゲームをして話したりしながら、休み時間や始業後に来てもらえるような場所にしています。
ただ、私達が学校に出向く機会は多いときでも週1回です。生徒は週5日学校に通っていることを考えると、物足りなく感じることもあります。
そのため、私達がいなくても居心地良く過ごせるよう、教室内における生徒同士の関わりが生まれる仕掛けを考えていますね。
ークレッシェンドで出会った生徒と再会できる場ですよね。
そうです。実際にクレッシェンドに参加した生徒さんも来てくれるため、嬉しいです。
未来の居場所をつくる部分では、「学校を卒業した後」も生徒の居場所がある状態を目指しています。
例えば、学校の近くにあるおにぎり屋さんやケーキ屋さんの方に、学校まで来ていただくことがあります。いごこちかふぇの中で食事を提供していただくことも多いですね。
私達が近くにいない状態でも、地域の人と関われる関係性をつくることが目的です。
また、地域の方やコンポーザーさんとの会話を通して、卒業後の進路を考えられるサポートも行っています。
仕事体験ツアー
仕事体験ツアーは、生徒が学校の外に飛び出して、1日あるいは2日程度の仕事体験を行う事業です。
居場所事業で生徒と話していると、「◯◯の仕事に興味がある」と話す生徒がいます。その会話が起点となり、実際に仕事体験をするケースが多いですね。
ーそれぞれの事業がつながっているんですね。
その通りです。実際に仕事体験に行った感想の中には、「興味のある分野だったけど自分には合わなかった」という感想もあります。ただ、実際に試してみて合わないとわかったことは、本当にいいことだと思います。
試した結果として合わないことがわかったのは、生徒にとって新しい発見になるためです。
学校を卒業してから1〜2年で仕事を辞めてしまう生徒も、一定数存在します。
在学中に働くイメージができる機会をつくりたいと考えたため、仕事体験ツアーを実施しています。
ユキサキチャット
ーオンラインでも活動をされているとお伺いしました。
そうですね、「ユキサキチャット」というLINEを使った進路相談のサービスを提供しています。
主な対象は、不登校や中退の経験がある10代、および通信制・定時制高校に通う生徒です。平日の10〜19時の間で相談員が相談に答えるもので、何度でも無料で相談ができます。
「つながりをつくる」姿勢を大切にしているため、相談に対する回答は同じ相談員が行うようにしています。
相談がメインではあるものの、雑談をすることも珍しくありません。相談や雑談を通して、生徒ひとりひとりの「ユキサキ」を一緒に考えていきます。
野津さんのこれまで
「ここからは、野津さん個人に焦点を当てて話を進めていきます。まず、野津さんのこれまでに関してお伺いしました」
ー野津さんの略歴を教えてください。
高校はスポーツ推薦で入学しましたが、入ってから周囲との温度差を感じて行きづらくなりました。
家族ともあまりうまくいかず、学校も行かず家にも帰らず、3週間くらい公園にいました。
ただ、担任の先生や顧問の先生が動いてくださって、なんとか学校に通い続けることができました。その出来事から、教育に関心を持ち始めた流れです。
ー高校生の段階でさまざまな苦労をされたんですね。
いろいろありましたね。
大学は教員免許を取りたいこと、しんどさを抱える人と向き合いたい気持ちから、教職課程を履修できる心理系専攻を選びました。
ただ、教職課程は履修していたものの、「何か違う」という違和感を持ったまましばらく過ごしていました。
あるとき、小学校時代の先生と偶然再会したことがきっかけで、子どもと関わるボランティアに参加しました。
そこでは、子どもがやりたいと思っていることを否定せず、実現に向けて大人がサポートする光景が広がっていたんです。
「素敵な関わり方だな」と思ったことは今でも覚えていますし、後にD×Pに関わるきっかけの部分ともなりました。
D×Pに関わるきっかけと現在の役割
ー子どもと関わるボランティアに参加したことが、D×Pに関わるきっかけとなったのでしょうか?
それも1つです。ただ、他にもありました。
通っていた大学の近くに、地域の良さ(歴史・特産物・自然など)を市民の方に知ってもらうイベントがあったんです。
そのイベントの運営ボランティアを務めたとき、「大人って意外とおもろい人おるんやな」と思いました。
自然や歴史に関する知識が豊富な人・地域の居酒屋とともにバルイベントを開催する人など、あらゆる活動を行う大人の方々がいました。
「面白い大人の方々が、子ども達のやりたいことをサポートする形で関わる機会が増えればいいのに」と考え、この気持ちを実現できる活動がないか探していたときに見つけたのが、D×Pでした。
大学3〜4年のときにインターンとして活動し、大学を卒業してからは一度D×Pを離れましたが、再びD×Pに戻ってきて現在に至ります。
ーD×Pからは一度離れて、再び帰ってこられたんですね。
はい。大学を卒業したばかりの自分では、D×Pの職員として働ける自信がなかったためです。
クレッシェンドに参加し続ける中で、生徒のやりたいことや悩みなどの「種」は聞くこともあります。ただ、それに対して何かをできる機会も力も当時はなくて、やり切れなさを感じることもありました。
ひとりひとりのやりたいこと、悩みなどのニーズに応えるにはコンポーザー・寄付者・企業・学校の先生など、多くの方々と協力することが必要です。
様々な考え方やニーズがある人たちと一緒になって、事業を進める能力があるとは思えませんでした。
そのため、「修行しよう」と思い、「協働」をテーマに社会課題やまちづくりに向き合う”World seed”という団体で働きました。
働く中では、さまざまな関係者の人と関わり、調整をしなければならない場面がたくさんありました。
大変なことも多くありましたが、「さまざまな人と協力をして物事を進める」経験ができたことは、自分にとって自信になりました。
もともと2年程度でD×Pに戻る考えを持っていて、その考え通りD×Pに帰ってきました。前職での経験も活かしつつ、2018年10月からD×Pの正職員として働いており、現在はオフライン現場の事業部長を務めています。
学校現場で感じられたコト
「これまで、学校現場に幾度となく足を運ばれてきた野津さん。学校現場ではどのようなことを感じてこられたのか、お伺いしました」
ーインターン生として一番最初に学校現場に入られた際、どのような気持ちでしたか?
一番最初はクレッシェンドを実施する場面で学校に入りましたが、特に緊張することはなかったですね。コンポーザーさんと生徒が関わってよかったと思える時間をつくりたい、その一心でした。
初めてお伺いする学校の場合は、今でも毎回緊張します。(笑)
ただ、生徒と話すことは本当に楽しいし、面白いです。自分の知らないことを教えてもらうこともたくさんあります。
ー数々の現場に入られた中で、苦労されたことなどはありましたか?
もちろんあります。
クレッシェンドは、もともと通信制高校を中心に行っていました。その後、定時制高校にも導入し始めましたが、通信制高校の内容ではうまくできないことがたくさんありましたね。
「関わってよかったと思える時間」が実現できず、悔しい気持ちになったことも多々あります。
また、これは私が苦労したことではありませんが、生徒自身がどうしようもできないような環境のなかで、生きづらさを抱えてしまう社会に違和感を感じます。
どんな環境にあっても、生徒ひとりひとりが安心できる場所とつながれたり、自分が納得できる将来を考えられたりする仕組みをつくりたいと感じました。
コロナが与えた影響の大きさ
「新型コロナウイルスは、現在も落ち着く気配を見せません。社会全体に影響を与えたコロナウイルスは、高校生にも多大な影響を与えていました」
ーコロナはさまざまな面で大きな影響を与えていますが、高校生にも影響を与えていると感じた部分はありますか?
たくさんありますが、大きい部分で言えば求人数が減ったことですかね。
選択肢が狭くなったことは、生徒の進路にも大きな影響を与えかねないため、悩ましい部分だと感じます。
他にも、アルバイトがなくなったり、家庭全体の家計が苦しくなったりしたという話も聞いています。
また、「今年はなかったようなもの」と話す高校生もいました。その言葉は、強く印象に残っていますね。
ー本音を表した言葉のようにも思えますね。野津さん自身も、高校生と関われない部分でもどかしさを感じることがあったと思います。
もちろんありました。クレッシェンドやいごごちかふぇは6月まで再開できず、遅いところでは9月まで再開できなかった学校もあったほどです。
コロナの影響は確かにありましたが、自身の力不足を感じることもありました。
オンラインでできることに注力し、いろいろとできたこともありましたが、オフラインは非常に苦しい状態でした。
この状況下だからこそできること
「D×Pは、パソコンの寄贈や食料の提供など、対面が難しい現在でもさまざまな支援を行っています。組織としてさまざまな支援を行うD×Pにおいて、野津さんは『個人として』何ができると考えているのか、お伺いしました」
ーこの状況下において、野津さん個人はどのようなことができると考えていますか?
オフラインでできることは何か、オンラインだからこそできることは何かなど、「考え続けること」はしていきたいです。
私たちみたいに人と関わるお仕事をされている方は、悩むことがたくさんあったと想像しています。私もたくさん悩みました。
特に、「リアルな場面での人との関わりが減ってしまうのではないか」という不安がありましたね。
ただ、ささいな感情の変化が読みたれたり、同じ場にいることで感情の共有ができたりなど、「リアルじゃないとできないこと」は絶対にあると思っています。
マスクをする・消毒をするなどできる限りの配慮はしつつ、対面でのコミュケーションは今後も継続させたいです。
そのうえで、ひとりひとりの変化やニーズを捉えつつできることを考え、実行に移していきたいですね。
野津さんの今後
「2015年4月から、D×Pで働かれている野津さん。5年目を迎えた現在だからこそ、今後に関する質問をぶつけてみました」
ーD×Pの職員として、野津さんは今後どのような存在になりたいと考えていますか?
D×Pが大切にしている姿勢の「否定せず関わる」「ひとりひとりと向き合い、学ぶ」を、誰よりも体現できる人間として、誰よりもこだわってやり抜く人でありたいです。
今後、悩みごとをオンラインで相談できるサービスは増えるでしょう。ただ、仮にそのようなサービスが増えたとしても、D×Pらしさである「否定せず関わる」姿勢を見失わないことが重要です。
見失ってはいけない姿勢だからこそ、誰よりも考えて、発信して、体現する役割を担いたいです。
D×Pに関わりたいと考えている方へのメッセージ
ー最後に、この記事がきっかけで「D×Pに関わりたい」と考えている方に向けて、何かメッセージをいただけますと幸いです。
私は「未来に希望を持てる社会をつくりたい」と考えているので、その考えに賛同いただけたら嬉しく思います。
関わる高校生の中には、確かに生きづらさを抱えている高校生もいますが、それはほんの一面にしか過ぎません。
ひとりひとりには、さまざまな面があります。面白い趣味をもっていたり、周りに気を配っていたりと「すごいな」「素敵だな」と感じることがたくさんあります。
高校生が本来の自分を発揮できず、周囲の環境によって生きづらさを抱えてしまう社会はおかしいと思います。人とのつながりを通して、未来に希望を持てる社会をつくりたいです。
関わり方は
・寄付
・コンポーザー
・職場体験の受け入れ
などさまざまです。
一緒にビジョンをつくる仲間になっていただければ非常に嬉しいです!
取材後記
今回、取材予定時間は約45分を想定しておりましたが、実際は2倍の90分となりました。お忙しい中、詳細にお話をいただいた野津さんには、感謝の気持ちでいっぱいです。
本当にありがとうございました。
生きづらさを抱えた高校生が少しでも前向きな気持ちで生きられるよう、努力される野津さんとD×Pの活躍は、今後も目が離せません。
なお、D×Pではコンポーザーの募集と、マンスリーサポーターの募集を行っています。
(コンポーザーの募集は行っていない期間もあります。ご了承ください)
・「定時制・通信制に通う高校生と関わりたい」
・「直接的に関わることは難しくても、寄付という形で支援したい」
とお考えの方は、下記よりご確認ください。
https://www.dreampossibility.com/be_a_composer (コンポーザー募集)
https://www.dreampossibility.com/supporter/ (マンスリーサポーター募集)
それでは!
Webライティングの仕事を中心に、インタビューや編集もこなす人。
野球中心にスポーツが大好き。フットワークの軽さが特徴的で、どこにでも飛んで行ける。
スポーツと教育に対する興味が強い青年
コメントを残す